1997年10月1日水曜日

迷路に入った日本経済と「景気対策」

「だからいったじゃないの」とはあまり男らしい口吻ではない。しかし昨今の低迷する国内景気を見てこのような感想を心に抱く人も多いのではないか。多くの反対を押し切り今春から実施された消費税率の引き上げなどのデフレ政策は、案の定、国内景気を大きく減速させてしまった。個人消費は低迷し、在庫は積み上がり、生産活動は萎縮している。輸出だけは好調だが、東南アジアの景気減速と対米黒字の急増で先行きは不透明だ。期待成長率の低下による設備投資計画の下方修正も始まっている。産業界を見てももよい業界はほとんどない。特に地方と中小企業で景況感が悪化している。

景気低迷の直接のきっかけは消費税の引き上げによる個人消費の予想以上の下ぶれにあった。通例であれば消費税率が上がっても消費者は生活水準を維持するために貯蓄を取り潰す行動に出るため大きな需要の落ち込みは発生しないのだが今回は違った。夏口を過ぎても消費者は慎重な態度を崩していない。

この消費者行動の慎重化という傾向はどうも基調的なものらしい。バブル崩壊後、家計の消費性向は一貫して低下を続けている。背景にあるのは将来生活に対する不安だろう。金融部門のバブル後遺症は予想以上に根深く、産業活動にも悪影響を与えている。雇用不安が広がり、人口高齢化で年金システムの破綻すら危惧されだした。そういう状況のなかで家計は支出を抑え貯蓄に励む以外に有効な自己防衛手段を持たないのである。生活水準を落とすことは簡単なことではないが、幸いにグローバル化でより安い代替商品が入手できるようになった。倹約も目的意識を持てばまた楽しいのである。しかしこれでは景気はなかなか良くならない。日本経済はいまや失速寸前である。

どうしたら景気を浮上させられるかであるが、なかなか有効な対策が見えてこない。金利はぎりぎりまで下がっており、今さら金融緩和でもない。やはり財政の出番であると財政再建を先送りにしてでも財政を出動させよとの議論が出ているが、やはりこれはまずいだろう。国債残高の累積は、納税者から国債保有者への巨大な所得移転メカニズムを国家の保証のもとに制度化することに他ならないからである。減税は望ましいが景気への乗数効果は小さい。規制緩和や土地の流動化政策などは必要な政策ではあるが、どれだけ景気浮揚の効果を持つか疑問である。数多くの景気対策が議論されているが、打つ手は限られており、いずれも景気を浮揚させる機関車とはなりそうにない。

この様な場合、むしろやるべきことは、内容に乏しい「景気対策」の長いリストを作ることではなく、政府が行財政改革を断固として推進するとの決意を具体的な行動で示し、国民に将来に対するコンフィデンスを与えることだろう。不況の時にしかできないこともある。歳入減少を奇貨としてとらえ「小さい政府」の実現に邁進すべきである。

このままでは民間企業は現在の鬱陶しい低成長が来世紀にかけて続くことを前提に個別の対応を考えざるをえない。そうしたら不況は本当に長期化する。

橋本尚幸